最近隣人からいただいた本棚。自宅に運ぶために上を持ち上げると上段がスポンと抜けた。見ると各段が独立していて積み重ねていくいわゆるシステム家具である。側板に小さな金属版。読むと「日本楽器會社製」と実用新案登録番号が二つ表記されている
。最下段が引き出しユニット、二段目から五段目までは本棚ユニット、五段目の上に天板ユニットが載って高さ140㎝、幅は91㎝、奥行き29㎝である。部材は細い四本柱とそれを水平に繋ぐ部材および底板と側板と背板。これが1セットとなっている。板は厚みが3ミリ程度と薄いがベニヤではなくムクの板をつないでいる。上段を重ねるときには下段の側板を柱の溝に滑らせて下ろす。ずれないで重なる工夫である。上下を連結するために小さなフックが角々に付くが必須では無い。前面の柱には波型の彫刻が施され、そのデザインが天板まで周っている。前後の柱を細い鉄棒で連結していてその頭が前面に出ている。なぜ鉄棒は必要だったのか。この辺りが開発技術者の苦心の点かもしれない。
元日本楽器で家具などのデザインを担当していた道具学会のT氏に早速写真を見せると間違いなく日本楽器の家具であり「山葉セクショナル家具」とネーミングされた書架に違いないと言う。
その後氏から資料が送られてきた年表の昭和10年に「山葉整理箱付きセクショナル書架」があった。歴史的には山葉の家具は明治36年に創業者の山葉寅楠が高級木製家具を製作したところから始まる。昭和のはじめには国会議事堂の椅子や家具を手がけている。一方で庶民向けに開発したのがこのシリーズであった。家庭や図書館、企業向けに実質的な素材で作られ廉価でありながら機能性を持つので人気を集めたと記されている。しかし戦時色が濃くなって楽器と共に生産は中止となったようだ。戦後家具に復帰した山葉は「ヤマハ・システム家具」という分野で他社との差別化を図る。組み替え、分離が自由でユーザーがアレンジ出きる家具である。そのような意味でこの書架は山葉の伝統のスタートを担うものであることが分かる。家具に詳しい会員諸氏に御見せして更に研究をしたいものである。
なお家具の裏面にレッテルが貼ってあった。判読が難しいが以下と読めた。上段には「静岡県生産用品価格査定委員会」下には「査定番号3」「書架ケース大0.9尺」「税込490.00」とある。これは何を意味するレッテルかお分かりの方はぜひご一報いただきたい。